2021年春季低温工学・超電導学会 セッション報告

5月19日(水)
A会場

HTSコイル 1A-a01-05 座長 野口 聡

1A-a01:曽我部(京大)らは、CORC導体を用いたコイルの交流損失を簡易化解析手法により見積もったCORC導体のようなスパイラル導体の応用は今後増えていく可能性がある。
電磁界解析の要求も高まっていくであろう。より発展的な研究を期待したい。
1A-a02:長崎(東北大)らは、宇宙機搭載用高温超電導コイルの補強構造について検討を行った。宇宙機搭載用コイルは、サイズが大きく、発生磁場も大きいことから、大きな軸方向力
が働く。発生磁気モーメントと耐軸方向応力の検討が良くなされていた。
1A-a03:今川(NIFS)らは、冷却剤として液体水素の活用を目指し、高温超電導コイルの性能予測手法を検討した。線材特性が大きな影響を与えることを示した。
1A-a04:岩本(NIFS)は、液体水素冷却時の高温超電導線特性を計測するための装置を製作した。内部観察も可能であり、測定結果が大変楽しみである。年度内の測定を目指している。
1A-a05:伊東(テラル)らは、アルミビレット加熱装置のためのレーストラック型HTSコイルを製作した。コイルには、鉄芯も設けられている。励磁特性が示され、シミュレーションと同等の
性能が達成されたことを確認した。


HTSケーブル 1A-p01-08 座長 戸坂 泰造

「低交流損失・ロバスト高温超伝導ケーブル(SCSCケーブル)の研究開発の初期結果」と題した8連報の発表。SCSCケーブルは、低交流損失と常電導転移に対する安定性の両立を
目指した薄膜線材の複合導体。芯材の周囲に薄膜線材がスパイラル状に巻かれており、構造的には、Conductor on round core導体と同じであるが、細線化された薄膜線材のフィラメント
が銅安定化層を介して電気的につながっていることが特徴。試作したケーブルやそれを模擬した薄膜線材に外部磁場を印加し交流損失を評価した研究「1A-p02:王(京大)1A-p03:重政
(京大)1A-p04:雨宮(京大)」や、意図的に電流を迂回させる状況を作ることで、クエンチに対する安定性を評価した研究「1A-p05,06:趙(京大)1A-p07:羅(京大)」、大規模
数値電磁界解析の構築「1A-p08:曽我部(京大)」の報告があった。質疑応答においては、コイル化する際にケーブルを曲げることに対する影響や、安定性と交流損失のバランスに
関する議論等、活発に行われた。初日最後、2時間休みなしのセッションであったが、最後まで40人超の参加者が減ることもなく、薄膜線材複合導体に対する注目度の高さが伺えた。




5月19日(水)
B会場

RE系・鉄系Ic特性 1B-a01-03 座長 松本 明善

「1B-a01:酒井ら(福岡工大)」はTFA-MOD法で作製された線材のJc分布を磁化法で測定した結果を示した。線材全体に関しては磁気顕微鏡によりJc分布を計測し、それぞれ
の特徴ある場所においてのJcを持つ試料を切り出して詳細に分析を行った。Jcが出ていない部分では非超伝導層が多くの部分を占めていることがわかったと報告があった。
「1B-a02:浅井ら(東京農工大)」は多結晶材料の超伝導電流輸送モデルの検討を行った。ノードとエッジを使ったグラフ理論を電流輸送モデルに適用する試みであり、得られた
結果からボトルネック部の考察を行った。
「1B-a03:土屋ら(名大)」は臨界電流測定にパルス電流を用いた測定方法を新たに提案した。熱暴走等を避けるために短時間のパルス電流による測定を行うために電流リード
の材質や形状における違い等の調査を行った後実際のI-V特性評価を行った結果を示した。
「1B-a04:呉ら(九大)」はKドープBa122長尺線材の極低温・磁界下における局所的臨界電流評価を行った結果の報告を行った。今回実施した局所分布解析と実際の短尺線材の
特性およびコイルIcとの比較により妥当性の評価についても報告を行った。
「1B-a05:岡田ら(東北大)」はFe(Se,Te)コート線材の強磁場下における臨界電流測定および磁束ピニング機構についての考察を行った。CeO2からCeF2に最表面をかえることに
よって低温・高磁場側の特性が向上していることを報告した。また、低磁場で90゜近傍にJcの窪みが見られる点について低磁場で効く球状ピンの可能性についても考察を行った。


MgB2 1B-p01-03 座長 児玉 一宗

1B-p01:長村(応用科研)らは,複数社のMgB2線材の室温引張試験の結果、Voigt則から見積もったMgB2のヤング率が文献値よりも著しく低いことを報告した。この差異は線材中
のMgB2がボイドを内包することに起因し、簡易的な計算から体積が同じでも微細なボイドが多量にある方がヤング率の低下が顕著になることを示した。
1B-p02:小池(青学)らは、少量のB粉末を添加したMgB2粉を前駆体とする部分Mg拡散法バルクに対して、一軸プレスのみの場合と圧延加工を追加した場合のJc特性を比較した。
圧延加工により最適な焼結温度は低温化したが、粒成長が促進されて高磁場のJcは寧ろ低下するという結果であった。
1B-p03:谷貝(上智大)らは、SMES用の大容量撚線導体の製造時における素線の凹み変形に起因したIc低下を定量的に把握するため、新調した装置を用いて凹み量とIcとの関係
を評価した。Nbプレートに粉を包むCTFF法を採用するHyperTech社の素線はプレートの重なり部で破壊が起こり易く、Nb管に粉末を充填する方式のSam Dong社の線材よりも小さい
凹み量でIcの低下が起こるとのことであった。


加速器・核融合(2) 1B-p04-06 座長 小野寺 優太

1B-p04:角(KEK)らは、COMET超伝導磁石システムの建設状況について報告した。各装置が完成・順次製作中であり、2023年に物理データ取得開始を目指している。パイオン
捕獲ソレノイドマグネットに用いられる冷凍機の稼働時間や補修方法について議論が行われた。
1B-p05:村上(量研機構)らは、JT-60SA超電導コイルの運転結果について報告した。CS/EFコイルは5 kAまでの安定な通電を達成。TFコイルは25.7 kAの定格通電を達成。
TFコイル、CSコイルおよびEFコイルの通電データを取得し、接続抵抗や温度上昇およびクエンチ電圧を評価した。評価した通電時間の理由や通電初期の電圧の上昇の要因、
今後の実験計画について議論が行われた。
1B-p06:平井(福井工大)らは、放射線環境に適合した複合材料(FRP)設計の為の基礎研究について報告した。樹脂板・FRPの重量減少率と残像発熱の相関を調べた結果、
樹脂板には相関があるものの、FRPには明確に見られなかった。重量変化のメカニズムやアフターキュアの手法について議論が行われた。


5月19日(水)
C会場

A15線材 1C-a01-05 座長 杉本 昌弘

「1C-a01:涌谷(東海大)」は、急熱急冷法で製作された複数のNb3Al線材の臨界電流の弾性領域(ヤング率90-130 GPa)における引張歪依存性を調べ、歪感受性が小さい
ほど破断歪が大きく、破断歪(0.15%-0.6%)は残留歪の影響を受けていると考察した。
「1C-a02:菊地(NIMS)」は、リアクト・アンド・ワインド法に適用可能なブロンズ法Nb3Sn超極細超伝導素線(直径0.05 mm、7.3 km無断線)を用いた撚線を試作し、熱処理後の
ハンダ含侵の有無による臨界電流の曲げ歪依存性の違いを調べた。超極細超伝導素線の量産化や長尺化において、ブロンズ法Nb3Sn線材の利点は中間焼鈍を適用できる
ことだとした。
「1C-a03:伴野(NIMS)」は、800℃~1200℃の焼鈍によるNb-4at%Ta-1at%Hf合金の結晶粒径の変化と、1010℃/5 hの焼鈍有無しで粒成長が大きく異なるCu/Nb-Ta-Hf単芯線
にSnメッキを施し、熱処理後生成されるNb3Sn層の結晶組織を調べた。Nb3Sn生成の促進は、粒径の細かさではなく加工歪の大きさが関与しているとし、Nb3Sn結晶粒径が増大
している焼鈍試料におけるピンニング特性低下を磁化測定により明らかにした。
「1C-a04:小黒(東海大)」は、Cu母材にSn芯線1本とNb-4at%Ta-1at%Hf芯線8本を複合化した内部拡散法Nb3Sn線材を試作し、熱処理670℃×200 hrによる約12 μmのNb3Sn
層生成をEPMAで確認した。Nb、Sn、Taパウダーを用いたNbチューブ法線材は、Nb6Sn5の介在によりNb3Sn生成過程が異なったため、TaとHfを個別にNbに添加した比較用線材
でSn拡散挙動を調査する必要があるとした。
「1C-a05:森田(上智大)」は、Ti添加場所を変えたNb/Cu/Sn拡散対におけるNb3Sn微細組織と超伝導特性を調べた。500℃/100 h + 685℃/100 hの熱処理において、Ti添加場所
によって形成されるNb3Sn微細組織に違いはないが、TiをNbに添加した場合はNb3Sn生成が促進され臨界電流およびBc2が高くなり、SnまたはCuに添加した場合はCuSn/Nb3Sn
界面に形成するTiリッチ層によりNb3Sn生成が抑制されるとした。


冷却・冷凍 1C-p01-04 座長 仲井 浩孝

1C-p01:星野(明星大)らは、超電導応用機器と冷却装置・電源装置を繋ぐ冷媒管ならびに電流リードに可撓性を持たせることによってレイアウトや据え付け方法の自由度を
増すために、可撓部モデルを試作し、液体窒素を用いた予備冷却試験を行った。窒素ガスの質量流量に対する流路圧力損失の計算結果に現れる折れ線部(レイノルズ数に
よる摩擦係数の計算式の場合分けに起因する)や参考文献との計算式の違いに関する議論が行われた。
1C-p02:上野(東芝エネルギーシステムズ)らは、1D-CAEによる設計手法を超電導磁石の冷却システム設計に適用し、冷凍機、サーマルシールド、超電導コイルおよびそれら
をつなぐ伝熱板等の要素モデルを作成して、定常時の温度分布および予冷や励磁時といった過渡現象の温度推定を行った。超電導磁石の冷却における液体窒素および液体
ヘリウムの置換時間についての議論を行い、置換の手法を考慮すべきとの意見があった。
1C-p03:平野(NIFS)らは、高温超伝導コイルの冷却に発生する磁場と磁気冷凍技術を組合せる技術の開発を進めており、磁気作業物質に磁場の変化を与えるため、磁気
遮へい体を繰り返し挿抜することで磁場変化を得る方式を検討している。高温超伝導体を磁気遮へい体として利用するために、YBCOバルク体の磁気遮へい能力を評価した。
反磁場係数の補正などについては今後検討する。薄膜の積層に比べてバルク体は素性や特性の分布が起こりやすい。
1C-p04:岩本(NIFS)らは、レーザー核融合の高速点火実証実験(FIREX)用に固体重水素燃料ターゲットの開発を行っている。ターゲットはプラスチックシェル内側に固体
重水素燃料層を生成し、追加熱用のコーンを取り付けている。球形シェル中に固体重水素燃料層を形成する手法として赤外線加熱法が開発されているが、この赤外線加熱法を
修正し高速点火用ターゲットの燃料層形成に応用した。ターゲットシェル内に生成した多結晶の固体水素を単結晶化する方法や追加熱用コーン部周辺の固体水素の状態などに
ついての質問があった。


デバイス 1C-p05-06 座長 日高 睦夫

1C-p05:横国大の山梨氏から小型化されたデコーダとメモリセルによる拡張可能な超伝導ランダムアクセスメモリの報告があった。超伝導デジタル回路と整合性のある大規模な
ランダムアクセスメモリ(RAM)の開発は、超伝導デジタル回路実用化のための大きな課題である。小型化されたメモリセルは、偶数列と奇数列に異なる2種類の形状を用いること
で列の増加に対する拡張性を有している。相補出力非破壊読み出しフリップフロップ(NDROC)を(2N-1)個ツリー状に並べることによってN出力のデコーダを構成できる。8-bitの
RAMを試作し、十分な動作マージンで正常に動作することが確認された。今回は最初の試作であり、まだ小型化の余地は十分残されている。今後レイアウトを詰めることによって、
小型化の限界と拡張性の議論に展開していくことが期待される。
1C-p06:産総研馬渡氏から前回に引き続き斜め地場中の十字型ジョセフソン接合における特異な臨界電流特性の報告があった。縦方向磁場fz印可によりX方向およびY方向臨界
電流値の干渉パターンが大きく変化する。非常に興味深い現象であるため、実験で確認を行う必要を感じた。その際、本解析で用いられた線幅や絶縁膜膜厚などのパラメータが
実際のデバイスで実現できる範囲の大きさであるのかが課題であると感じた。




5月19日(水)
P会場 ポスターセッションI

REBCOIc・ひずみ特性 1P-p01-04 座長 田中 秀樹

「1P-p01:坂井(名大)」では、パルス電流による超伝導線材の高電界における特性評価結果が報告された。四端子法における電流ループを小さくしインダクタンスを従来の半分
程度に低減することで、市販REBCO線材の電流電圧特性を5 mV/cmの電界範囲まで測定した。限流器での検討には電界1 V/cmでの評価が必要とのこと。
「1P-p02:石塚(東海大)」では、引張り環境下におけるREBCO線材の臨界電流の磁場角度依存性が報告された。人工ピン有無によってIcの磁場角度依存性が異なることが示された。
「1P-p03:栗原(東海大)」では、曲げひずみを与えたREBCO線材の臨界電流の磁場角度依存性が報告された。Icの磁場角度依存性は、人工ピン有無による違いは観測されなかった。
「1P-p04:田中(福岡工大)」では、高電界下におけるREBCO線材の電流輸送特性を評価すべく、線材表面に0.5 mm厚さの銅板をはんだ接合したサンプルでの測定結果が報告された。
0.1 V/m程度の電界まで測定できることを示した。


核融合(1) 1P-p05-06 座長 伊藤 悟

1P-p05 尾花(NIFS): LHDの超伝導マグネットシステム運転で、現状の制御プラグラムでは人が対応せざるを得ない部分を自動制御化することを目指すために、蓄積された計測
データを機械学習(深層学習)させ、温度予測を可能としたことが報告された。今後、装置の故障を予測するモデルも検討する予定である。また、システムの無人化を目指すため
には強化学習を取り入れる必要もある。
1P-p06 小野寺(NIFS):核融合実験装置用の大電流容量導体として開発を進めているFAIR導体の電流導入部の設計・製作・接合抵抗の評価を行った結果が報告された。FAIR
導体を構成する各REBCO線材ごとの接合抵抗は150~510 nΩとばらついたものの、このばらつきは許容範囲内であり、また、定格電流12.5 kAにおける端部全体の発熱は目標と
する5 Wを下回る値におさめることができている。


数値解析・実験的評価 1P-p07-11 座長 花井 哲

1P-p07:村上(早大)らは、細線化後、銅メッキを施したREBCO線材を巻線したパンケーキコイルをプラトー付きOvershoot法で励磁することにより、励磁後にREBCO線材に
流れる結合電流による不整磁場を絶縁モデルのコイルと同等のレベルまで抑えられることをオーバーシュート率10%、プラトー時間100000 sの解析例で示した。
1P-p08:内藤(岡山大)らは、高磁場超電導マグネットの内挿REBCOコイルを対象に,外部補強無し、YOROI構造補強、オーバーハンド構造補強、それらの複合構造補強の
4種構造における励磁時および消磁時の遮蔽電流に起因する巻線内電磁応力解析を行い、それぞれの補強効果を示した。
1P-p09:宮本(岡山大)らは、無絶縁巻線コイルにおける巻線間の電気的接触抵抗を交流通電により測定する方法を提案した。電磁力解析と実際に測定した無絶縁巻線コイル
抵抗の周波数特性を比較検討することにより、外部磁場が小さく、10 Hz以下の振幅が小さい交流通電を行えばこの測定方法が有効であることを示した。
1P-p10:雨宮(京大)らは、小振幅磁界下での磁化損失の周波数依存性から結合時定数を求める装置を新しく構築した。新装置は、0.5 mTの磁場振幅を10~10 kHzの周波数で振り、
磁化損失を計測するもので、ピックアップコイル内部にインサートデュアを挿入することにより、液体窒素温度、液体ヘリウム温度の2つの温度での測定を可能にしている。
1P-p11:福田(岡山大)らは、臨界温度が高く、Nb3Snより耐ひずみ特性に優れたNb3Alを用いた伝導冷却方式の超電導応用機器の開発を目指している。ここでは、最新の極細
Nb3Al素線により製作した撚り線導体のIc-B-T特性と交流損失特性の測定結果が紹介されている。


低抵抗接合(1) 1P-p12-13 座長 筑本 知子

本ポスターセッションでは2件の発表があった。
1P-p12:鐘(九工大)らは、有限要素法(FEM)(JMAG-Designer18.0)を用いて角度を有した超電導線材の接合部におけるI-V特性の数値シミュレーションを行い、臨界電流の
密度の角度依存性を求めた結果を報告した。接合角度とともに接合部の面積が増えるに従い、臨界電流が上がる傾向がみられた。
1P-p13:赤坂(鉄道総研)らは、超電導き電ケーブルのオンサイト接合技術の開発を目指し、低融点合金をもちいたBi系超電導線材の接合特性の電気的、機械的特性評価を
行った結果について報告した。接合のラップ長を10−30 mmに変化させた結果から、接合長20 mm以上にて、目標値である300 N以上の引張にたいしてIc変化がないことが確認
された。曲げ試験において、20 mm試料において不均質の曲げ依存性がみられたことに対する質問があり、それに対して発表者より、接合部ははんだ付けによって堅くなり一定
以上の曲げひずみで外側の線材のみ折れるような状態になることが原因と考えられるという回答があった。また使用したはんだはPbSn合金である。


5月19日(水)
S会場 特別セッション

「MgB2超伝導体20周年記念」 1S-p01-04 座長 下山 淳一

本セッションは題目の通り、20周年を迎えたMgB2超伝導体を記念するもので、本学会でも今日に至るまで多くの研究成果の報告があり今なお材料応用の発展が期待されている
なか、MgB2の超伝導発見を導いた秋光純先生、その長尺線材化をColumbus社を立ち上げ早期に実現したGrasso氏を招待講演者として招き、続いて臨界電流特性改善手法の
提案を重ねてこられた熊倉前学会長、最近の新しい応用をリードしている日立の田中氏に講演いただいた。このセッションには常時130名以上の参加があり盛況であった。
1S-p01:秋光(岡山大)は、MgB2の超伝導発見に至った経緯、当時の研究メンバーの協力体制、超伝導体としての特徴を紹介したあと、最近取り組んでいる新超伝導体探索研究の経過を
報告した。注目している物質はSrIrO4でキャリアが十分な濃度ドープできれば高温超伝導が期待できるもので、様々な試みが行われてきたが今のところ超伝導化には至っていない。
1S-p02:Grasso(ASG:伊)は、MgB2の実用線材化にむけてのColumbus社での研究開発を振り返り、2003年頃より長尺線材の量産化を意識した製造を始め、様々な応用に提供して
きたことが示された。液体Heフリーの医療用MRIは2006年頃より0.5 T程度のオープンタイプが製造されており、今後はさらに高磁場タイプの開発も目指すとのことである。また、
CERNの大型加速器のアップグレードにおける電流リードへの採用の話題や、将来の直流著距離送電計画などを、MgB2線材応用の見通しが明るく語られた。
1S-p03:熊倉(NIMS)はBサイトへの炭素置換方法を中心にこれまでのMgB2多結晶材料の磁場中臨界電流特性改善に向けた研究成果をコンパクトにまとめて報告した。炭素置換
だけでなく緻密な組織にすることも重要であり、これは炭素原料の性質にも依存すること、高圧下での熱処理が有効であることなどが示された。
1S-p04:田中(日立)は、生産性が向上しかつ長尺線材として高い臨界電流特性の示す自社MgB2線材の最新の応用について紹介した。クライストロン用磁石、高速励磁MRI用磁石
(ドライブモード)、小型MRI用磁石(永久電流モード)は新しい出口であり、特に診察・治療中に即座に利用できる高速励磁MRIは多少感度が悪くても普及する製品と感じた。




5月20日(木)
A会場

HTSマグネット 2A-a01-06 座長 淡路 智

本セッションでは広義の無絶縁コイルに関する6件の発表があった。
2A-a01:岩井ら(東芝エネルギーシステムズ)は、導電性樹脂を用いた内径500 mmのMRI用REBa2Cu3Oy (REBCO, RE: rare earth, Y) コイルを作製した結果について報告した。
定格145 Aで360 mmの室温ボアに中心磁場3 Tを発生する設計である(設計は前回の低温工学で報告済み)。コイルは1台のGM冷凍機で冷却され、30 Kにおいて定格以上の
201Aまで通電を行い4.2 Tの磁場発生に成功した。その後、4.2 Kにおいて145 Aまで通電した後142.2 Aに下げて磁場安定度を上げた状態で、200 mmの空間で3 T を発生した。
続いて2A-a02:宇都ら(東芝エネルギーシステムズ)は、上記マグネットを用いてタマネギのMRI画像の撮像に成功したと報告した。上記オーバーシュート後の磁場均一度は
200 mmDSVで168.7 ppmであり、鉄シムにより1.8 ppmに改善することができた。画像はまだ粗いが、撮像条件の最適化により向上が期待されるとした。REBCOによる画期的な
成果である。
2A-a03:坂本ら(早稲田大)は、無絶縁コイルにおける熱的安定性と励磁遅れにおける層間電気抵抗の影響についてシミュレーション結果を報告した。ここで言う熱的安定性とは、
局所劣化が発生した場合の発熱量によって評価している。内径500 mmダブルパンケーキコイルを外部磁場10 Tの条件で検討した結果、負荷率60%の場合で1-6 mΩcm2の時に最適で
あるとした。これらの値は、負荷率や許容発熱量によって変化する。実際の無絶縁コイルの層間抵抗はmΩcm2のオーダーであり、金属絶縁などによる層間抵抗の制御が重要になると
思われる。
2A-a04:長渕ら(早稲田大)は、無絶縁コイルにおける銅安定化層厚および層間抵抗の熱的安定性に及ぼす影響について、シミュレーション結果に基づいた報告を行った。結論として
安定化銅の厚みは熱暴走に至る層間抵抗値に影響し、2 mm/sideの銅厚でも層間抵抗が2 mΩcm2までは安定に通電可能であると報告した。
2A-a05:結城ら(早稲田大)は、無絶縁コイルにおけるピックアップコイルによる局所劣化検出について報告した。内径60 mmのダブルパンケーキコイルを3積層した無絶縁REBCOコイル
(50ターン/SP)を作製し各コイル上部にピックアップコイルを設置し、ヒータによる局所劣化を模擬して劣化検出実験を行った。その結果、最大で1V程度の電圧の発生を確認できるとした。
2A-a06:濱田ら(早稲田大)は、複数の劣化部分を有する無絶縁コイルにおける熱的安定性について、層間接触不良の影響をシミュレーションによって調べた。その結果、局所抵抗が
1016 Ωcm2の絶縁状態では熱暴走に至るが、通常のmΩcm2では熱暴走に至らないことがわかった。無絶縁コイルでもリスクの高い層間抵抗
が存在することが同グループから提案されている。用途によっては、今後最適な絶縁抵抗を施したREBCOコイルによる実用REBCOマグネットの実用に期待できる。最初の2件の報告コイル
の層間抵抗はおおよそ1 mΩcm2程度であり最適化されている可能性がある。


磁気分離(1) 2A-a07-10 座長 秋山 庸子

生物学的水処理への磁気分離法の適用に関する4件の発表が行われた。
2A-a07:酒井(宇都宮大)の発表では、生物学的水処理技術における磁気分離法の位置づけと、その特徴、課題、適用範囲のマッピングに関して俯瞰的な報告がなされた。
コスト低減の方法、超電導磁石適用の可能性についての議論が行われた。
2A-a08:徐(宇都宮大)の発表では、メタン発酵法に磁気力による高速固液分離を導入することで、高負荷での高い水処理性能が得られたことが報告された。温度管理の
方法や、スケールアップに向けての課題について質疑があった。
2A-a09:斎藤(宇都宮大)の発表では、同じくメタン発酵法への磁気分離の適用について、20℃の低温で十分な水処理性能を得ることに成功したことが報告された。冬期を
想定した、さらに低温での検討の必要性、温度が処理能力に与える影響について質疑が行われた。
2A-a10:小笹(宇都宮大)の発表では、ベンチ/パイロットスケールでの磁化活性汚泥法での試験結果から、余剰汚泥なしに長期間の連続水処理が可能であることが報告
された。実規模プラントに向けた展望、季節による温度変化の影響等について議論がなされた。
セッション全体として、磁化活性汚泥法、磁化メタン発酵への磁気分離法の実用化への道筋が明確化され、将来展望が期待できる内容であった。


5月20日(木)
B会場

REBCO線材作製・高Ic化 2B-a01-08 座長 藤田 真司

2B-a01:下山(青学大)は、銅酸化物超伝導体のキャリアのオーバードープによる磁場中Jc特性向上を狙い、CaドープRE123およびPbドープBi2212焼結体を作製し、Tcと粒間
Jcの評価を行った。その結果、いずれの場合もドープによりTcは低下するが、20 Kの磁場中粒間Jcは向上することを報告した。
2B-a02:小澤(青学大)は、フッ素フリーMOD法においてClおよびBaMO3(M = Zr、 Hf)を共添加したY123薄膜を作製し、超伝導特性を評価した。Cl添加によりRE123膜中に
Ba2Cu3O4Cl2が膜中に生成することでRE123の二軸配向が促進され、さらにBMOを添加することでピン力を向上させる狙いである。Zrは3%添加、Hfは1%添加で最も、Jcが高くなり、
Zr3%添加ではJc(40 K, 4 T) ~2.2 MA/cm2を記録した。
2B-a03:山崎(元産総研)は、YBCO薄膜の自己磁界Jcの温度依存性を考察し、自己磁界Jcが低濃度の比較的大きなナノ粒子によるピン止めで規定されると仮定することで
実験結果を説明できることを示した。また、この仮定により自己磁界Jcと表面抵抗の逆相関も説明できることを示した。
2B-a04:岩崎(九工大)は、超電導体を用いた磁気浮上により物体を浮かせて加工する中空加工技術を想定し、超電導体がREBCOバルク体の場合とREBCOテープ線材の場合で、
永久磁石との反発力を有限要素法で解析した結果について報告した。同じサイズの超電導体では、バルクよりもテープ線材を用いることで、より大きな反発力が得られる結果であった。
2B-a05:舩木(島根大)は、導電中間層を用いることでAgを無くした構造の低コストREBCO線材を目標として、導電中間層材料の一つであるLaNiO3をスパッタリング法で成膜し、
電気抵抗率を評価した。LaNiO3成膜後に、PLD法によるREBCO成膜プロセスを模擬した熱処理を行った結果、結晶性に変化はなく、抵抗率は熱処理でむしろ低減した。LaNiO3
に実際にPLD法でYBCOを成膜した結果、LaNiO3の抵抗率は低い抵抗率を維持したが、YBCOのTcJcは高くなく、YBCOへの元素拡散を抑制する工夫が必要と思われる。
2B-a06:伴野(NIMS)は、REBCO多芯線材の開発を目標に、レーザー加工で0.5 mm幅に細線化した銅めっきREBCO線材をスタックし、溶融はんだコーティングし、外周に銅めっき
することで直径約1 mmの4芯線材を作製した。I-V測定を行った結果、偏流が見られたことから、フィラメント間の電流パスの確保が課題であり、フィラメント配置を見直す必要がある
とのことである。
2B-a07:伊東(名大)は、欠陥の少ないVaper-Liquid-Solid成長法で作製したREBCO線材における酸素拡散速度向上を目的とし、酸素アニール中に電気抵抗を測定することで酸素
拡散係数を評価した。膜の結晶性が悪いほど拡散は速く、人工ピンを導入することでも拡散が速くなった。
2B-a08:村山(名大)は、成膜時に基板に電流を流す自己抵抗加熱方式を用いたPLD法により、BaHfO3をドープしたYBCO薄膜を作製した。BHOによりJcは向上したが、BHOナノロッド
は大きく湾曲し、いわゆるfire-works構造となっていた。蒸着速度が速いことによる影響の可能性があるとのこと。


NMR 2B-a09-10 座長 横山 彰一

2B-09では東工大Techit氏からHTS受信アンテナのための銅線送信アンテナをGA法により最適化設計した報告があり、複数回実施し最適化確認したアンテナ配置を3Dプリンタ
によりフォーマを製作しアンテナを試作。従来のソレノイドコイルよりも良好なカップリングを確認し、今後HTSアンテナと組み合わせることで7倍の感度向上を確認する。質疑では
課題の入力パワーが大きくなることに対し、低温プローブのため軽減できる見解を述べた。
2B-10では岩手大高橋氏からMgB2超伝導バルク磁石による20 MHzNMRを試作し、NMR信号での評価を発表。低磁場NMR向けであるが磁場形状、磁場安定度が良好なMgB2バルク
をマグネットに適用。今回は、イタリア製の円筒で評価し、20 KでFCし15 K過冷却で1ppm/h以下の安定度を確認できた。磁場均一度を評価し、20 MHzでNMR信号を取得。磁場
均一度を評価し改善方法など検討した。




5月20日(木)
C会場

伝熱・物性 2C-a01-04 座長 岩本 晃史

「2C-a01:高畑(NIFS)」過熱液体の突沸現象による圧力上昇を利用した高温超伝導機器の発熱箇所同定法の開発に関する研究。液体窒素を使用した試験を行い加熱後の圧力変化の
から突沸箇所の同定が可能であることが判った。
「2C-a02:堀井(玉川大)」熱伝達表面を低熱伝導材で被覆することで沸騰熱伝達を改善させる研究。無酸素銅球表面に格子状または縦縞状の樹脂製のメッシュを形成させその効果を
調べた。液体窒素による実験では樹脂製のメッシュが冷却速度を向上させることが判った。
「2C-a03,2C-a04:LOPATINA(金沢大) 」タイトル:単結晶RAl2(R=Gd,Er)の磁気熱量効果、熱膨張・磁歪,及び多結晶希土類ラーベース化合物の磁気熱量効果と輸送特性の研究、の
2件が報告された。磁気冷凍機に使用する候補材料(単結晶GdAl2,ErAl2)(多結晶ErAl2,DyNi2,DyAl2,GdNi2)について4 K – 300 Kの熱収縮率、磁歪、熱伝導率、熱拡散率など必要な
物性を測定した結果が報告された。


バルク作製(1) 2C-a05-10 座長 寺尾 悠

本セッションでは、合計6件の発表があった。
青学大の笹田ら(2C-a05)は、Single-Direction Melt Growth(SDMG法)により作成したY123及びDy123溶融凝固バルクの作製を行い、特性を測定した結果を報告した。
青学大の元木ら(2C-a06)は、同じくSDMG法を用いて複数のバルクを正六角形もしくは正方形状に隣接して配置して成長させたバルク超電導体を切り出して特性を測定した結果を
報告した。
東京農工大の田中ら(2C-a07)は、Premix Mg気相輸送(MVT)法において、粉末MgB2のPremix量を変えて作製したMgB2バルクに関する評価を行い、最適Premix量の試料が
Jc @20 K, 0 T = 7.7×105 A/cm2を記録したことを示した。
岩手大の箱石ら(2C-a08)は、鉄系超電導体(Co置換Ba122)のバルクを放電プラズマ焼結(SPS法)によって温度を変化させて作製・評価を行い、4.2 K, 0 TにおけるJc
2.7×103 A/cm2 (950 ℃)、1.9×103 A/cm2 (900 ℃)、2.5×103 A/cm2 (850 ℃)となることを示した。
東京農工大の長谷川ら(2C-a09)は、(Co置換Ba122)のバルクをSPS法で焼結条件を変えて試料合成を行い、600 ℃, 5 min.と700 ℃, 0 min.で作成した場合に、2.0×104 A/cm2
超えるJcが得られたことを報告した。
岩手大の小山田ら(2C-a10)は、Nb3Snバルク超電導体を、SPS法にて作製し、特性評価を行った結果を報告した。




5月20日(木)
P会場 ポスターセッションII

冷凍システム 2P-p01-02 座長 高畑 一也

2P-p01:阿部(東工大)から、室温磁気冷凍システムを用いた冷蔵庫に対して、扉を開閉した場合の庫内の温度変化の解析結果が報告された。熱交換器の形状を変えた解析結果
からフィンチューブ型熱交換器を用いることで磁気冷凍システムの実用化が十分可能であることが示された。セッションでは、既存の冷凍システムと比較して今回の磁気冷凍システム
のメリットは何か、実験との比較の予定はあるのか等の質問があった。冷蔵庫のノンフロン化に向けて実用化が期待される。
2P-p02:野口(東工大)から、高温超伝導コイルのGM冷凍機を使った循環冷凍システムにおいて、コンプレッサーの代わりにクライオファンを用いた場合の、性能比較が解析によって
示された。概して、クライオファンを使ってもコンプレッサー使用時と同等の性能が得られることが分かった。クライオファンを使うことで装置の小型化が可能となるため、その優位性が
生じる。先の発表同様、実用化が期待される技術である。


熱流体 2P-p03-05 座長 岡村 哲至

2P-p03:前川一真(神戸大)液体水素タンクを減圧したときの、蒸発量、温度・圧力変化を計測した結果について考察されている。減圧前の液体の温度分布や、液体の充填率が蒸発量
や沸騰挙動に大きな影響を与えることが指摘されている。
2P-p04:前川一真(神戸大)液体水素の海上輸送実験で得られたスロッシングに伴う液体水素タンク内の液面・温度・圧力などの結果をもとに、熱流体解析ソフトウェアを用いて液体
水素タンク内の熱流動挙動を調べている。スロッシングが容器内の温度や圧力に与える影響を明らかにしている。
2P-p05:武田実(神戸大)航続距離1000 ㎞級FCトラック・トレーラー用の角形液体水素タンクの開発を目指している。第一段階として熱流体解析ソフトウェアを用いて液体窒素の
蒸発・凝縮現象のモデルを確立して、実験結果を再現することを試みており、今後の課題を抽出している。


バルク作製(2)・着磁(1) 2P-p06-07 座長 内藤 智之

本セッションでは2件の発表があった。
「2P-p06:恩地(鉄道総研)」 金属含浸,合金溶射法を応用した金属コーティングおよび金属メッキを施した充填率50%程度のMgB2バルクの着磁現象について報告した。これら一連の金属
補強が施されたMgB2バルクの着磁過程においてフラックスジャンプが抑制されることを見出した。金属補強による実効的な比熱の増大およびバルク表面の冷却熱流束の向上等により熱的
安定性が改善されたためと結論した。
「2P-p07:横山(足利大)」 RE系バルクのパルス着磁において軟鉄ヨーク厚が捕捉磁場特性に及ぼす影響について報告した。ヨーク厚の増加とともに印加パルス磁場がロングパルス化され
総磁束量が増大することを見出した。また、着磁温度が低いほどヨーク厚の影響が大きいことも明らかとなった。今後は実験と数値計算を併せてヨーク形状の最適化を検討するとのことであった。


REBCO導体 2P-p08-09 座長 井上 昌睦

2P-p08:吉田(名大)らは、BaHfO3(BHO)を添加した長さ7 cmのYBCO線材9本を用いて縦磁場超伝導導体を作製した結果について報告した。巻き角5°、単層の導体で得られたI-E特性に
よると、77 K、自己磁場での導体Icは、260 A程度であった。縦磁場を最大0.3 Tまで印加した導体Icの磁場依存性の結果は、素線で得られたIc-B特性から予測される設計値とほぼ同じであった
とのことである。また、導体の電流容量を上げるために厚膜線材の作製にも取り組んでおり、3 mmまでのBHO添加YBCO線材を作製している。BHOナノロッドは短く切れ、傾斜もしているとの
ことで、今後の原因解明が待たれる。
2P-p09:成嶋(核融合研)らは、積層したREBCO線材をBSCCO線材で挟み込むかたちで補強したものを金属のフレキシブルチューブで束ねた後、アルミジャケットに挿入し、低融点金属で
含浸した導体(WISE導体)を複数作製し、その臨界電流測定および冷却サイクル試験の結果について報告した。REBCO線材を34本まで増やした導体では、2000 Aを超えるIcが冷却サイクル
14回目まで継続して得られていた。過電流試験においては、約2,500 Aでクエンチが観察されていたが、電流導入部に近い点から電圧が発生していることから、電流端子からの熱の流入が
原因であると考えられる。今後、電流導入部付近での発生電圧をより詳細に測定する計画を立てているとのことである。


磁気分離(2) 2P-p10-13 座長 三島 史人

本セッションでは、強力な磁場を用いた分離法である磁気分離技術が紹介された。(2P-p10は取り消し)
2P-p11 藤井(阪大)、2P-p13 斉藤(阪大)は、海洋などの環境中に浮遊するマイクロプラスチックファイバーや流出油の回収、いわゆる環境浄化の分野に、新たに磁気分離を適用する
という提案であった。現在はどちらの研究も強力な永久磁石回路を用いた基礎データ収集の段階にあるが、処理速度の増大に向け、今後は超伝導化も期待できる技術として研究開発が
進んでいる。また、2P-p12 上原(宇都宮大)の発表では、同大グループが開発を進め、様々な領域で導入を見据えた試験運用段階となっている磁化活性汚泥法による高負荷運転への
知見やその長期運用時に取得した貴重なデータが発表された。
今回すべての発表の磁気分離法について、要素技術として、分離装置以外にも共通して磁気シーディング技術(分離対象物質への磁性付与)があり、それに関する分離効率の最適化や
磁性粉回収方法に関する質疑や、それぞれの磁気分離装置の磁場発生源の超電導化についての展望やそのニーズの有無などが活発に議論された。




5月21日(金)
A会場

電力応用 3A-a01-03 座長 小川 純

3A-a01:山口(中部大) 直流超伝導ケーブルをヘリカル変形させて挿管することにより冷却による収縮ストレスを緩和した実験結果の報告を行っていた。これまでの実験結果を交え冷却に
よる挙動について丁寧な説明がなされた。
3A-a02:神田(中部大) 最外にREBCO線、内側にBi2223線を4層の計6枚の超電導線を積層した条件で、往復通電時の臨界電流値の評価を実施していた。実験結果より、積層した条件で
往復電流を通電することにより臨界電流値は上昇することが報告された。
3A-a03:井上(岡山大) 蓄電池電車を目的とした鉄道用非接触給電に関する報告が行われた。伝送効率を上げるため、交流損失を小さくする必要がある。使用する線の量を一定とした条件
で数値実験により、線を分割し転位した場合に交流損失が小さくなり送電効率が向上することが期待できるという報告が行われた


遮蔽電流・交流損失 3A-a04-10 座長 柳澤 吉紀

3A-a04:野口(北大)らは、REBCOマグネットにおいて遮蔽電流が応力増大に与える影響を正確に把握する観点から、新しい遮蔽電流解析手法を提案した。巻線構造や軸方向電流も
考慮した回路方程式を使う方法で、薄板近似+FEMと比べ、実験結果との一致の良い結果が示された。
3A-a05:野口(北大)らは、前報と関連し、励磁時のREBCOパンケーキコイルの形状変形による遮蔽電流への影響を把握するために、弾性解析と遮蔽電流解析を連成させ、両端を固定
したREBCO線材に斜めに外部磁場がかかった場合の遮蔽電流の生成の様子を報告した。変形を考慮することで、遮蔽電流が小さくなり、逆転することが示された。3A-a04とあわせ、
線材内の遮蔽電流の分布について議論があった。また、収束計算について質疑があった。
3A-a06:糸日谷(早大)らは、高温超電導スケルトンサイクロトロンにおけるREBCO線材細線化による遮蔽電流磁場低減の解析結果を報告した。4個のメインコイルと、セクターコイルの
うち、一部のコイルを細線化することで、目標とする磁場精度が得られることを示した。細線化の効果の解釈について議論がなされた。
3A-a07:小久保(早大)らは、無絶縁REBCOコイルシステムにおける励磁遅れを考慮した遮蔽電流磁場の低減法について、実験結果との比較をしながら解析による検討を報告した。電流
のオーバーシュートを基本とし、これにプラトー過程を設けることで、効果的に安定磁場を得る方策が示された。
3A-a08:駒込(前川)らは、SMES用の間接冷却MgB2コイルの交流損失評価の実験結果を報告した。特に、間接冷却のために用いる熱伝導体に生じる渦電流損の低減が重要で、このため
の措置を施した。ここでは、交流損失評価のために液体ヘリウム浸漬冷却で試験を行い、効果を確認した。
3A-a09:金沢(室工大)らは、ローラーカッターによって多芯化したREBCO線材(スプリット線)の臨界電流と交流損失低減効果を報告した。多芯化によって、磁場中印加によるIc低減
が抑制されることと、ヒステリシス損失が低減されることが示された。
3A-a10:柁川(山理大)らは、無冷媒強磁場マグネットでの使用が想定される2枚バンドルHTS導体について、小型コイルの交流損失の測定結果を報告した。接続部のジュール損失を除いた
結果、周波数依存性は見られず、ヒステリシス損失が支配的であることが明らかとなった。実コイルにおける交流損失の振る舞いについて議論がなされた。


回転機・超電導応用 3A-p01-04 座長 三浦 峻

本セッションでは4件の講演があり、WEB会議システム上で聴講者数は40名程度であった。
「3A-p01: 福井(新潟大)」では、電気推進式航空機へ向けた全超伝導誘導電動機の設計検討とその特性について報告があった。定格運転時および過負荷運転時(定格の150%)において、
わずかなすべりが発生するが、ほぼ同期運転することが解析から示唆された。電気推進航空機は離陸時においては、推進用モーターを過負荷で飛び立つことが想定されており、この過負荷・
同期運転の特長は他のモーターに対しての一つのアドバンテージとなり得ると考えられる。
「3A-p04: 結城(東北大)」では、超伝導線材に多孔質金属のポーラス安定化材を接合し、限流動作後の線材の除熱性能を高め、早期復帰を目指す研究が報告された。発表された構造に
おいて、従来の線材と比較して復帰時間が短縮され、約1秒で復帰することが示された。目標となる復帰時間0.3秒に向けて、構造の改良を検討しており、今後の研究開発が期待される。


安定性・保護 3A-a05-11 座長 王 旭東

3A-p05 間藤 昂允(北大):導電性樹脂や銅による電流迂回路を持つターン間絶縁コイルを無絶縁REBCOコイルと同様に等価回路で近似し、導電性樹脂や銅の電流迂回路への接触抵抗を
パラメータとしてクエンチ解析評価について報告された。接触抵抗が実測値の範囲では、無絶縁REBCOコイルの温度上昇が電流迂回路を持つターン間絶縁コイルより低いという結果であった。
質疑では、パンケーキコイルやレイヤー巻きコイルを同様の等価回路で解析する妥当性について聞かれ、近似的にパンケーキコイルとして計算しているという回答であった。
3A-p06 小髙 一真(北大):3枚共巻きの無絶縁REBCOコイルの励磁特性や電流・熱的安定性について、ターン間の接触抵抗率をパラメータに数値解析した報告であった。ターン間を絶縁
すると、クエンチによる電流迂回は3枚共巻き内で限定的となるが、無絶縁でターン間の接触抵抗率が小さいほど径方向へ迂回が広がり、熱的安定性が高くなる。質疑では、3枚共巻き内の偏流
について聞かれたが、バンドル枚数の増加で緩和される可能性があるという回答であった。
3A-p07 仲田 悠馬(千葉大):単線の無絶縁REBCOコイルに対して、3枚共巻きした場合の励磁遅れと電流転流について数値解析された。3枚共巻きのコイルは、インダクタンスを小さく
抑えることができ、単線の無絶縁REBCOコイルに対して励磁遅れの改善が顕著であった。劣化個所からの電流迂回も従来の無絶縁コイルと同様に確認された。
3A-p08 末富 佑(千葉大):Intra-Layer No-Insulation(LNI)法で製作した内径18 mmのREBCOコイルのクエンチ解析を行い、線材と銅シート間の接触抵抗をパラメータとして、
クエンチ温度とフープ応力について評価した。解析結果から、実験でのクエンチによるコイル劣化が発生しなかった原因として、接触抵抗が10000 μΩcm2であることが示された。また
接触抵抗が10000 μΩcm2未満であるとフープ応力が大きくなり劣化する可能性があるという結果であった。質疑では、接触抵抗の分布を考慮しているかについて聞かれ、一様と仮定して計算して
いるという回答であった。
3A-p09 阿部 徹(東北大):層間絶縁の2枚共巻きREBCOコイルの発生磁場の時間変化とヒステリシスについて、局所欠陥があるモデルコイルで実験と解析評価された。電流依存性が少ないこと
から、線材内の遮蔽電流よりも2枚共巻きの結合電流が磁場変化に支配的であるという結果であった。質疑では、局所欠陥が多数存在した場合の影響について聞かれ、欠陥の規模によって特性
は大きく変化することが予想されるという回答であった。
3A-p10 吉田 隆(名大):レーザーで線材に等間隔で表面から中間層まで貫通するマイクロパスを作製して、複数枚のREBCO線材を積層した大電流導体の電流迂回を容易にする構造を提案
された。試作線材の電気特性評価などにより転流評価を報告された。マイクロパスによる電流迂回が実験で確認された。質疑では、マイクロパスによる超伝導層のロスはどの程度あるのかが聞かれ、
レーザー照射範囲が相当するという回答であった。




5月21日(金)
B会場

バルク着磁(2)・応用 3B-a01-04 座長 元木 貴則

バルク着磁(2)・応用セッションでは、4件の発表が行われた。
3B-a01:新田(岩手大)らは、円筒形REBCOバルクにおいてパルス着磁特性を評価し、均一性が低い要因を調べるために熱応力によるバルク破壊に関する解析についても報告した。シミュ
レーションより発熱領域における端部に応力が集中するという知見が示された。
3B-a02:吉田(岩手大)らは、MgB2バルクをパルス着磁する際にフラックスジャンプを抑制する目的で、熱はけの向上やパルス幅の増加が可能と考えられる無酸素銅板とバルクを組み合わ
せた着磁手法について報告した。銅板を用いることでパルスのブロードニングに成功した。一方、銅板における発熱の影響が大きく、捕捉磁場特性の改善にはさらなる改良が必要である。
3B-a03:寺尾(東大)らは、GdBCO薄膜線材をリング状に巻くことで積層させ、リング内部に永久磁石を挿入する際の電磁力について報告した。永久磁石の形状や磁力線方向の違いによって
電磁力に大きな差が見られ、積層リングを2つ用いた際に最大6 Nの電磁力が得られたことを報告した。新しい試みであり、今後の展開が期待される。
3B-a04:寺西(九大)らは、磁場シールドへの応用を目的としてYBCO粉末をPET樹脂で固めたフィルムの諸特性について報告した。軽量で変形可能なため、10 mT程度までの弱い漏れ磁場の
シールドなどへの応用が期待される。


超電導接合 3B-a05-09 座長 小林 祐介

3B-a05:中井(青学大)からはBi2223線材間超伝導接合の臨界電流特性向上ついて報告があった。接合部へのBi2212主相Bi2223少量添加スラリーの使用、中間一軸プレス過程の
導入、還元ポストアニールの実施により接合臨界電流特性が向上するとのことである。
3B-a06:武田(NIMS,理研)からはBi2223コイルの永久電流特性試験について報告があった。400 MHzNMR試験のために制作した内層コイルの4 K、自己磁場下での永久電流試験の
結果、約50 Aで400 h超の間、磁場の減衰は見られず、接合抵抗は10-12 Ω程度とのことである。
3B-a07:小林(NIMS)からはREBCO線材超伝導接合の磁場中接合抵抗評価について報告があった。超低抵抗・超伝導接合試料の評価に特化した装置を用いて、4.2 K、3 Tにおいても
307 A以上のIcと10-14 Ωオーダーの高特性を確認したとのことである。
3B-a08:金沢(室工大)からは、マルチスポット加熱装置を使用したBi2223線材間の超伝導接合について報告があった。複数の接合部を同時に製造できるマルチスポット加熱装置を
設計開発し、3箇所までの接合は実証できたとのことである。
3B-a09:井上(福岡工業大学)からは高分解能X線CTを用いた超伝導線材接合部の非破壊検査について報告があった。適用二値化法による空隙領域の三次元解析を行い、REBCO
接合線材の接合部において、空隙の距離を測ることもできたとのことである。


低抵抗接合(2) 3B-p01-05 座長 土井 俊哉

3B-p01:伊藤(東北大)らは、鉄道用高温超伝導き電ケーブルの接合に向けてBSCCO線材の直線配置、斜め配置、円形ケーブル直線配置の接合サンプルを作製し、In低温熱処理機械的
接合後の接合抵抗率の評価を行い、斜め配置の場合でも直線配置と同じ接合抵抗率が得られること、および円形ケーブル直線配置(円管表面に21本のBSCC線材を配置)の場合には、
接合部でInの薄化が起こりにくいため、In厚増加分だけ接合抵抗率が増加したことを報告した。
3B-p02:阿竹(東北大)らは、コンタクトプローブCTL法を用いてREBCO線材の層間抵抗率の磁場依存性を評価し、層間抵抗率は磁場の増加に従って減少することを報告した。この結果は
銀層/銀層間もしくは銀層/REBCO層間に金属の磁気抵抗効果以外の要因が存在したことを示唆すると指摘した。
3B-p03:筑本(中部大)らは、REBCO線材の新しい接合法として、銅安定化層同士を重ね合わせて加圧加熱する直接拡散接合法についての検討を進め、加圧圧力30 MPa、温度200℃×
5分の加熱で、23 nΩcm2と低抵抗な接合が得られたことを報告した。
3B-p04:松本(NIMS)らは、超伝導線材接合現場で容易に作業可能な235×220×64 mm、2.8 kgの可搬型超音波接合機の開発を行い、BSCCO線材を100 W、0.5秒の接合条件で接合し、
60 nΩcm2の接合抵抗が得られたことを報告した。テープ表面の研磨などの前処理を施すことで更なる接合抵抗の低減が期待される。
3B-p05:木須(九大)らは、超音波接合したREBCO線材の接合部の電気的、機械的特性を調査し、20 mmのラップ長で接合した試料の接合抵抗は30 nΩcm2、引張強度400 MPaであること、
安定化層20 mm線材の接合部の最小曲げ半径15 mm(臨界ひずみ量0.15%)、安定化層5 mm線材の接合部の最小曲げ半径5 mm(臨界ひずみ量0.15%)と接合部が優れた柔軟性を有する
ことを報告した

医療用加速器 3B-p06-11 座長 柁川 一弘

本セッションは、科研費基盤研究(S)の支援の下で実施している「スケルトン・サイクロトロン用REBCOコイルシステムの開発」で得られた幾つかの研究成果を取りまとめた連報として企画
されたものであり、3B-p06:石山(早大)らより、その全体概要が最初に紹介された。
3B-p07:渡部(中部電力)らは、サイクロトロンのセクターコイルに用いる二等辺三角形状のREBCOダブルパンケーキコイルを試作し、強磁場中における機械強度試験を実施することで、
独自に提案するYoroiコイル補強構造の有効性を実証した。
3B-p08:仲井(岡山大)らは、前報の二等辺三角形状セクターコイルを対象に、冷却に伴う圧縮と磁場中通電に伴う電磁力印加を模擬した応力解析を実施し、前報の試験結果を定性的に
説明することに成功した。
3B-p09:日比(早大)らは、サイクロトロンの出力エネルギーを3段階に変化させたときに生じる遮蔽電流磁場の振る舞いを電磁場解析し、オーバーシュートやアンダーシュートを併用する
ことで遮蔽電流磁場をある程度制御できる知見を得た。
3B-p10:野口(北大)らは、磁気シールドと放射線シールドを兼用した鉄シールドを備えたサイクロトロン用コイルシステムの最適化設計手法について検討し、モデル縮約法を採用することで
計算量を大幅に削減しながら比較的精度の良い最適化設計結果を得ることに成功した。
3B-p11:石山(早大)らは、超電導コイル固有の「常電導転移に対するコイル保護」と「高い製造コスト」という2つの大きな障壁を克服するため、優れた特性をもつREBCO線材をベースに「高安定・
無保護・低コスト」を同時に実現すべく研究開発を進めていることが紹介された。